IMDb Movie Review

IMDb.com に投稿されたレビューを日本語化(抄訳)します。

『ラストレター』(日本版)後半は陳腐だが、広瀬すずの魅力には抗いがたい

f:id:imdbmoviereview:20200121152123j:plain

二度作るまでもない、甘く感傷的なラブレター by JAMES HADFIELD 3/5点(JAPAN TIMES)

このところ若者を主役とする恋愛映画の退潮が囁かれている。観客はお涙頂戴の恋愛讃歌や子どもの恋愛物語に飽きてしまったからだというが、まさにその典型と言える『ラブレター』(1995年)を出世作とする岩井俊二の考えは違う。タイトルもストーリーも自身の過去作を彷彿とさせる本作で、岩井はいまも感傷的な恋愛映画の理想を追い求めている。

 

感傷的であることを躊躇しないが本作だが、少なくとも何人かの主演者のおかげでずっと魅力的な作品となっている。1998年の『四月物語』以来の岩井作品出演となった松たか子は、亡くなった姉ミサキを追悼する中年女性ユリを演じる。ユリが姉の死を伝えようと向かった同窓会で、姉と間違われ、売れない小説家となった元同級生のコーシロー(福山雅治)に「いまも君に恋している」と伝えられたとき、事態は複雑になっていく。ユリは真実を告白せずに、ミサキに成り代わって手紙のやりとりを始める。しかし、彼女が自分の住所を隠したため、コーシローが書いた返事はミサキの娘のアユミのところに届くことになる。

 

前半部分ではこうした思い違いのコメディを描くことに映画は成功しており、出演者たちもいきいきしている。松たか子の率直さは、見事な配役となった娘の森七菜と、エヴァンゲリオンシリーズの庵野秀明が魅力的に演じる気難しい夫とうまく調和している。

 

しかし岩井が後半もこの調子で続けられるか観客たちが気にし始めた頃、ユリは唐突に、ミサキの身に何が起きたか調べ始めたコーシローへと主役の座を譲る。そして軽妙だが物悲しい前半の物語は、退屈なメロドラマへと様変わりしてしまう。コーシローは作家としての自信を取り戻す機会をたっぷりと与えられるにも関わらず、ミサキは謎めいた人物のままだ(本作は岩井の小説が原作となっており、この冴えない主役は監督の分身であろう)。

 

本作の時間軸の重なり合いや、中年の主人公が若い頃の忘れられない恋愛を振り返るところは行定勲のお涙頂戴映画『世界の中心で、愛をさけぶ』を思い起こさせる。『ラストレター』のほうが先行きは明るいとはいえ、どちらも同じくらい古びている。

 

コーシローの理想化された恋愛は気高いものとして描かれているが、ナルシスティックで気味の悪いものにも映る。とはいえ、やはり広瀬すずの魅力には抗いがたい。アユミと若い頃のミサキを演じる広瀬すずの演技は完璧なもので、福山演じるコーシローとついに出会う場面はあまりに魅力的だったため、この映画のすべてを許してしまいそうになった。

 

岩井の作品だけあって全体的に美しく撮られているが、映像が作り出すゆったりとした魅力は、無意味なドローン撮影や気の散るカメラの揺れによって損なわれてしまっている。パブリシティの資料では言及されていなかったが、数ヶ月前には同じく岩井が監督した中国語版も制作されている。二度監督するに足ると考えるほど、岩井は本作に思い入れているようだ。しかし、以上の点を踏まえれば、それは一度で十分だったのではないだろうか。

www.japantimes.co.jp